監査法人もつらいよ。ニデックvs京都監査法人の力関係が、、、。

テーマはニデックのタコ配当開示 日常の話

2023年6月2日に京都のニデック(旧社名日本電産)が「分配可能額を超えた前期の中間配当金、並びに前期の当社株式取得について」というリリースを発表し、いわゆるタコ配当をしてしまったことを明らかにしました。
このリリースが監査法人とニデックの力関係というか、ニデックの怒りというか仕事に厳しい社風というかが、リリースの文面ににじみ出ており、話題になっています。

まずはニデックのリリース

ニデックが6月2日にリリースした「分配可能額を超えた前期の中間配当金、並びに前期の当社株式取得について」では、分配可能額を超過した配当を実施してしまったことについて記載されているとともに、「当社の会計監査人であるPwC 京都監査法人も分配可能額の超過を、見落としにより、指摘できていなかったことが判明」と監査法人について見落としたと記載されています。

ニデック「分配可能額を超えた前期の中間配当金、並びに前期の当社株式取得について」
ニデック「分配可能額を超えた前期の中間配当金、並びに前期の当社株式取得について」より

ニデック(日本電産)の2022年3月期の有価証券報告書を見ていると、その他資本剰余金は580億円、その他利益剰余金が1,309億円で剰余金の合計は1,886億円(単体決算)でした。そこから期末配当が203億円、第2四半期の四半期報告書では、2022年9月末の自己株式の帳簿価格が1,679億円(連結決算)でした。
ざっくりした計算なので、誤差はあると思いますが分配可能額は自己株式の処分がなければ、その他資本剰余金とその他利益剰余金からその後の配当と自己株式帳簿価額を控除して計算されます。
期末配当と9月での自己株式帳簿価格を引くと、1,886億円‐203億円‐1,679億円で4億円、土地再評価差額金の▲3億円などを加味するとほぼゼロ。ここで中間配当201億円してしまったので、タコ配当になってしまっています。

期中の配当や自己株式取得では、期首から配当するまでの間の当期純利益は分配可能利益に含めることはできません。
(会社法ではその時点で臨時決算をすれば当期の利益を取り込めますが、何もしなければ前期末の剰余金がベースになります。)

会社のリリースでは9月末までの自己株式の取得ですでに分配可能利益以上の自己株式の取得をしてしまっているようです。

まあ、会社としては9月の第2四半期報告書の段階で中間配当も注記しているので監査法人は分配可能利益を超えてるって指摘できるだろう、そして、会社法の監査はすでに2023年5月上旬にに終わってるであろうタイミングなので、そこでも指摘ないのか、という会社の気持ちも分かります。

でも、上場会社では、法令を遵守し決算を正しく開示する責任は会社にあるというところで、こういったケースで監査法人の手続に言及するのはあまり見かけません。
第三者委員会とか調査委員会の報告のなかでは監査法人の監査について言及されることは多いようですが、会社のリリースで言及しているのはかなりレアケースではないでしょうか。

まあ、ここまでだと会社が強気なリリースしたな、というところでしたが、このリリースは序章でした。

火に油を注いだかもしれない日経新聞の記事

2023年6月2日のニデックのリリースでもインパクトがありましたが、さらにニデックの怒りに火を注いだかもしれない出来事が起こります。

翌日6月3日の日経新聞でこの件が報じられました。
そこで、
一方、PwC京都監査法人は「分配可能額の確認は、会社の状況を踏まえて必要と認められた場合に実施するものであり、常に求められているものではない」としつつ「今回の件が『必要と認められた場合』だったかどうかは、守秘義務上、回答できない」と話した。
という京都監査法人のコメントが掲載されました。

京都監査法人としては、個別の案件については回答できないし、一般論として回答したものであったと思われますが、記事を読むと分配可能額の確認はうちの責任ではない、と言っているように誤解されかねない記事の書きっぷりです。
ニデックとしては、見逃しておいて、「分配可能額の確認は」「常に求められているものではない」というコメントはないだろうと、頭に来たのではないでしょうか。
(おそらく、この後のリリースを見ると、タコ配当が発見され、両者で協議したときには、京都監査法人も非を認めたのではないかと推測されます。)

京都監査法人が火消しのコメントをすることに、、、。

日経新聞の記事がでた2023年6月3日に京都監査法人がホームページでコメントを発表しています。

ニデックが出したプレスリリースについて「記載を事前に認識しており、その記載と相違はありません。」と、見落としにより、指摘できていなかったことを認めるコメントになっています。

PwC京都監査法人のHPでのお知らせ
PwC京都監査法人のHPより

ニデックが日経新聞の記事は誤解を招くとリリース

京都監査法人のコメントを受けて、ニデックがプレスを発表しています。

日経新聞の報道について「誤解を招く表現」があり、「PwC京都監査法人からお知らせが発表されております」と、京都監査法人のHPのリンク付きで発表しています。

ニデック「本日の一部報道機関における当社の分配可能額の監査に係る報道について」
ニデック「本日の一部報道機関における当社の分配可能額の監査に係る報道について」より

ニデックは京都監査法人の主要顧客のひとつ

PwC京都監査法人の「業務及び財産の状況に関する説明資料」(リンクはこちら)を見てみると、PwC京都監査法人の売上2022年6月決算で67億円、そのうち監査業務が60億円です。

PwC京都監査法人「業務及び財産の状況に関する説明資料」より
PwC京都監査法人「業務及び財産の状況に関する説明資料」より

ニデックの2022年3月期の有価証券報告書では、PwC京都監査法人への監査報酬が連結子会社含めると5億7千万円とPwC京都監査法人にとっては監査業務の売上の1割弱と重要な顧客のようです。

それとは別にPwCグループには11億円の報酬で、PwCグループにとっても報酬だけ見れば上顧客といったところでしょうか。

日本電産株式会社2022年3月期 有価証券報告書より
日本電産株式会社2022年3月期 有価証券報告書より

監査法人も大変だなと思う一連のリリースでした。

ニデックが「外部調査委員会の調査報告書受領のお知らせ」をリリース

2023年6月16日、ニデックが「外部調査委員会の調査報告書受領のお知らせ」をリリースしました。
これは、2023年6月2日のリリースで「社外の弁護士による外部調査を実施することを決定いたしました。」としていた調査の結果です。

この調査報告では監査法人の責任については、以下のように述べられており、この点については会社の2023年6月2日のプレスリリースの指摘について諫めているようにも感じます。

「本件自己株式取得等が分配可能額規制に違反していることの指摘がなされていれば、当該違反は事前に防げていた又は早期に発見されていたとの指摘もあり得るところである。」

「しかしながら、本件自己株式取得等が計画又は実施された当時、ニデック社の担当者から同法人に対して分配可能額規制に関する照会等は行われておらず」「本件自己株式取得等が分配可能額規制に違反した直接の原因はニデック社の社内にあったと考えられる。」

と、タコ配当の直接の原因は会社にあるというもっともな指摘をしています。

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株主総会では「公認会計士を何のために置いているのか」と発言

外部調査委員会の報告書で手打ちになったと思いきや、会社の怒りは収まっていないのでしょうか。
株主総会でも監査法人への怒りとも思える発言があったように報道されています。

Yahoo!ニュースで6/20(火) 15:53配信された産経新聞の記事によると、
『4年4~9月期の中間配当が会社法に基づく限度額を超えていた問題については「取締役がすべてを認識している必要はなく、私も規則を全然知らなかった。(監査した)公認会計士も知らず、何のために置いているのかということになった。二度とないように社内で必死に制度を勉強している」と釈明した。』
とされています。

外部調査報告でも明らかなように、中間配当の前の9月の自己株式取得の時点で分配可能限度額を超過しており違法状態となっているので、監査法人がレビューで指摘してもすでにその時点では違法状態ですので、公認会計士のせいにするのはどうかと思いますね。

さて、有価証券報告書の内部統制報告書はどうなるんでしょうね?人がやめたぐらいで中間配当の分配可能限度額のチェックリストが機能しなくなっても有価証券報告書では発見されて取締役の補填責任もなしってなってるからセーフなんですかね。

内部統制報告書では内部統制は有効と報告

有価証券報告書が間違ったわけではないので、予想通りですが、2023年6月21日に提出された内部統制報告書ではニデックは内部統制は有効として、京都監査法人もそれについて適正という監査報告書がでています。

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