2023年12月期の有価証券報告書の提出遅延で上場廃止の恐れがあるとされていたENECHANGE株式会社(エネチェンジ)が、タイムリミットの2024年7月10日の前日の7月9日に無事有価証券報告書を提出し、ひとまず、上場廃止の危機を乗り越えました。
なんで、有価証券報告書が遅延したの?
2023 年 12 月期より本格的に立ち上げた新規事業である EV 充電事業の SPC スキームに係る会計方針及びそれに関連する会計処理が問題となったようです。
そして、SPCの合同会社を連結の範囲に入れるかどうかという論点を発端に、内部統制や経営者の誠実性という論点まで派生し、外部調査員会の立ち上げなどあって、有価証券報告書の提出が大幅に遅れたようです。
時系列はこんな感じ
2023年12月末が決算日。そして、その後は以下のようなIRを発表してます。
2024年2月9日:「2023年12月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」
2024年3月6日:「第9期定時株主総会の「継続会」の開催方針に関するお知らせ 」
「会計監査人との間で、・・・中略・・・ EV 充電事業に関する当社グループが採用する会計方針及びそれに関連する会計処理につき、新たな協議やそれに伴う追加監査手続が発生したため、監査手続等に関して相応の時間を要していることから、現在、決算手続きが完了しておりません。」という理由で、定時総会で決算報告できない旨が公表
2024年3月27日:「外部調査委員会の設置及び2023年12月期有価証券報告書の提出期限延長申請の検討に関するお知らせ」
2024年3月29日:「2023年12月期有価証券報告書の提出期限延長に関する承認申請書提出のお知らせ」
2024年6月21日:「外部調査委員会の調査報告書の受領に関するお知らせ」
2024年6月27日:「2023年12月期有価証券報告書提出遅延及び 当社株式の監理銘柄(確認中)の指定の見込みに関するお知らせ」
「東京証券取引所の上場廃止基準により、延長承認後の提出期限(2024 年6月 28 日)の経過後8営業日以内(2024 年7月 10 日まで)に当該有価証券報告書の提出ができなかった場合、当社株式は整理銘柄に指定された後、上場廃止となります。」と上場廃止の恐れがある旨を公表。
2024年7月5日:「公認会計士等の異動に関するお知らせ」
2024年7月9日:「2023年12月期有価証券報告書の提出完了に関するお知らせ」
「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ」
「当社株式の監理銘柄(確認中)指定解除に関するお知らせ」
外部調査報告書は刺激的な記載が目白押し
6月21日に公表された外部報告書ではいろいろ刺激的な記載があります。
城口氏「別途、僕らが下取りをする、というのを裏で巻くことをしていいならできますが、ここは監査法人に黙って巻きたい」(P.23)
城口氏「一旦、今年度の会計処理さえOK がでれば、翌年度以降も OKになると思いますので、当社が充電収入の最低保証を行うとか、前払いでの資金提供を行う等で、E 社に実質にリスクを回避するスキームに当然するつもりです。」(P.25)
城口氏「その中で、『最低保証料金を求められた』定にするほうが、当社と E 社の一体感がなく、よりあずさ的にも合理性があると思っています。」(P.26)
城口氏「一旦今のスキームで、暫定的に時間稼ぎをした上で、速やかに E 社さんに金銭負担リスクのないスキームに変更しましょう。」(P.26)
城口氏「僕は G 社に■■とか貸し付けてもいいよね実際。(直接するとダメなんだろうけど)。」
A氏「G社への貸付けは実際問題ない(ばれない)と思います」(P.32)城口氏「そもそも SPC スキームが会計上問題ないか確認できているのか報告ください。プットオプションがある以上、監査法人に秘密でやるというにはダメなはず。」(P.35)
B氏「金銭消費貸借は絶対に表に出さないでください・・・表に出るとアウトな奴なので。」(P.53)
城口氏「データフォレンジックの要求を受けて、(中略)城口、B 氏は X 氏とのローン契約のメールを削除しました」(P.55)
また、城口氏は・・中略・・あずさ監査法人がデジタル・フォレンジックを実施する意向を有していることを聞いた後、パニック的に X 氏との間の電子メールを一部削除したが、その後考え直し、社内の管理者に削除した電子メールを復旧させた旨述べている。
調査報告書
・・中略・・
城口氏は、その後、外部者による調査委員会の設置が議論されるに至っていた 2024 年 3 月 18 日の段階で、前記(ⅰ)に挙げた投稿を含む複数の Slackの投稿を削除し、かつ、この事実を本調査において指摘されるまで当委員会に報告しなかった。(P.64-65)
経営者の誠実性としては、調査報告書(概要)のほうで、以下のように書かれています。
城口氏について、本件会計処理に関して、あずさ監査法人に対する説明と出資者に対する説明とを意図的に乖離させたり、そのような乖離を認識しながらあずさ監査法人にそのことを隠蔽したりした事実は認定できず、その点で経営者としての誠実性に欠けるとは評価できない。
他方で、本調査において判明した事実において、上場企業の連結財務諸表の作成に責任を負うべき経営者として不適切な言動が一部認められた。また、関連するSlack の削除行為なども認められたが、これも同様に不適切な行為であったといわざるを得ない。(P8)
調査報告書(概要)
外部調査委員会の見解としては、不適切な行為はしてるけど、誠実性に欠けるとまでは言えないということのようです。
ちなみに、外部調査報告書の委員長は、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社の公認会計士となっています。
KAMであずさ監査法人の見解が炸裂
7月5日に監査人の異動のプレスはでていましたが、7月9日の有価証券報告書の監査報告書の「監査上の重要な検討事項」(通称、KAM)であずさ監査法人のキレっキレの見解が出ています。
「調査報告書においては、上記の新たに把握された事実について、隠蔽の意図はなかったとする経営者及び 執行役員の供述は信用できるとして、これらの事実 (当監査法人に説明を行わなかった事実等)は意図的 なものではなく、経営者による不正は認められないと 結論づけている。」
「しかし、当監査法人は、このような調査報告書の内容を踏まえてもなお、経営者及び執行役員のslackの内容や電子メールを削除した事実など、存在する多くの証拠に照らして経営者及び執行役員の供述は信憑性を欠くものと判断し、以下の事実のとおり、重要な虚偽 表示の原因となる不正が存在したとの認定に至った。」
「取締役会及び監査役会に対して、調査報告書の内容を踏まえてもなお、当監査法人としては経営者の関与による重要な虚偽表示の原因となる不正が存在したと判断する旨の「見解書」を提出した。」
有価証券報告書 監査報告書
7月5日の監査人の異動の理由でも
「あずさ監査法人より、外部調査委員会の調査結果を踏まえてもなお、財務諸表の重要な虚偽表示の原因となる経営者による不正があったと判断したことから経営者の誠実性について問題があると評価しており、監査の前提となる信頼関係が低下し、今後の監査契約を継続することが困難になったと判断したという説明とともに辞任の申し入れがありました。」と書かれています。
監査の人員、監査報酬がどえらいことになってます
有価証券報告書の提出が3か月以上遅延する事態となり、それにともない、あずさ監査法人の投入人員、監査報酬が大きく増加しています。
前年2022年12月期の有価証券報告書では、補助者数は公認会計士5名、その他6名の11名となっています。
2023年12月期ではなんと、公認会計士61名、その他39名の総勢100名となっています。
監査報酬に関しても大幅増額となっています。
2022年12月期は33,800千円でしたが、2023年12月期は324,020千円となっています。
決算訂正に係る追加報酬は、なんと、276,020千円となっています。
ちなみに、年間監査報酬324,020千円は、味の素338百万円、中部電力311百万円、東京瓦斯308百万円に匹敵するレベルです。
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